アラウンド・チャイナ

ガイドブックにはあまり載らないニッチな中国旅行指南

街道をゆくでも取り上げられた川と並行に架かる橋・蘇州宝帯橋を訪ねる!

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蘇州・宝帯橋

 蘇州駐在者のバイブルと言われる一冊の本がある。司馬遼太郎の<街道をゆく>19巻「中国・江南のみち」だ。

 

 

 単に蘇州と杭州が舞台というだけの話だが、上海や北京ではなく、蘇州というマイナースポットに駐在する人にとって、本で取り上げられるというのは溜飲が下がる思いなのだろう(蘇州は日本人駐在員が中国で三番目に多い)。もっとも観光地が紹介されているわけではなく、司馬遼太郎はひたすら旧市街の家の造りばかりに注目し、書いているのであるが、その本に登場する観光地が、蘇州に関していえば2つだけある。ひとつは盤門、そしてもうひとつが、今回紹介する宝帯橋(bǎo dài qiáo:バオダイチャオ)である。

 ということで、歴史好きの蘇州駐在員は宝帯橋に行ってみたいと願うのだが、これがなかなか大変。なんせ驚くべきことに、地元の人に聞いても知らない人が多いのだ(そんな観光地あったっけ?という感じ)。それもそのハズ、宝帯橋があるのは、観光スポットが集まる旧市街でもなければ、日本人の集まる新区や園区でもなく、旧市街地南にある呉中区の外れという、実に辺鄙なところにある。しかも、僕が行った当初は近くにバス路線すらなく、バス停から1時間ほど歩かされるという、なんとも恐ろしい立地条件であった。タクシーを使えば行けないことはないが、帰るときはどうしようとなる(そんな辺鄙な場所に空のタクシーが走っているとは思えない)。ちなみに今は地下鉄が開通して、なんと電車でアクセスできるというから(それでも1.2kmも歩くけど)、つくづく便利な世の中になったと思う。

 さて、そんな超マイナースポットの宝帯橋だが、歴史ある観光地がひしめく蘇州の中でも、なかなか古い部類に入る。建設が始まったのは唐代819年のこと(蘇州の観光地は園林を中心に明清期のものが多い)。橋の長さは317mでアーチ型の石橋としては中国最長。そのアーチも全部で53もあり、これも中国のアーチ橋の中で最多である。アーチ型石橋としては、北京の盧溝橋や頤和園の十二孔橋に匹敵するとさえ言われているのだ。にもかかわらず、地元の人すら知らないというのは、やっぱり場所が悪いから。僕が訪れた際も閑散としていた状況であったが、それでもポツポツと人がいて、どこから湧いて出てきたのか不思議であった。

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宝帯橋の入り口。蘇州の観光地にしては地味。

  ところで根本的な問いかけであるが、橋はなんのために架けるのか? 答えは簡単、人や物を渡すためだ(橋という言葉は、道路の「端」から転じたという説もある)。地面には道を作ればいいが、川に道を作るには橋を架けなければならない。したがって、通常、川と橋はクロスで交じり合うハズだ。ところが、宝帯橋はそうじゃない。

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宝帯橋は運河と並行して架けられている

 ご覧のように、橋は京杭大運河の流れと並行に架けられているのだ。橋の先には中州があって、小さな寺が建てられているのだが、この寺に渡るためだとすると何とも仰々しすぎる。距離感を考えれば、島の向かいから小さな橋を架ければ済む話だ(というか、こんな中州に寺を建てる必要がそもそもない)。

 では、なぜ橋は並行に架けられているのか?写真を見ると、その理由が少しだけわかる。

 宝帯橋の少し北を見ると、東から別の運河が合流していることがわかる。この運河は澄湖、淀山湖と2つの湖を経て上海を東西に分割する黄浦江に合流する。 つまり、宝帯橋はこの運河の交差点上に位置するのだ。

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鉄橋の向こうが上海に続く運河

 もうひとつ、今度は理科の話。内陸の都市に比べ、海に近い蘇州では冬に強い季節風が吹く。風は温度の低いところから高いところに吹くため、冬の風は北西から南東に強い風が吹く(季節風の説明はこのYoutube動画が秀逸)。

 しかし、宝帯橋のあたりは上海方面と杭州方面に運河が分かれる交差点であるから、船のコントロールもままならない。つまりは、宝帯橋が川に並行に設置されているのは、渡るためではなく、船をコントロールするためだ。そう、宝帯橋は船を引っ張るために築かれた橋なのである。

 なるほど、ならば300m以上の長さが必要であったのも理解できるし、船を通すためにアーチにした理由もわかる。

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よほど小さな船でないと潜れない気がする

 無論、動力船が主流の今、この橋の存在意義はない。唯一の使い道としては先に書いたように中州の寺に行くためだが、行ってみると、あまりのちっぽけさに愕然とする。

 

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清の乾隆帝が書いたとされる太太廟の文字

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寺というより一昔前の小区(集合住宅)のような作り

 聞いたところによると、文革時に徹底的に破壊されたらしい。蘇州のこんな辺鄙な場所にも、文革の爪痕が残されているのだ。

 ということで、ただ橋があるだけのスポットであるが、ここの橋から見る光景はなかなか素晴らしい。おそらく水面に近いからで、まさに「大運河」という迫力ある景色を見ることができるのだ。その大運河の水面には、未だに旧式の貨物船がそれこそ止まっているかのように、ゆっくりとゆっくりと水の上を滑っていく。そんな船をただただ眺めているだけで、なんだか飽きないから不思議だ。

 

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宝带桥

交通:蘇州駅より地下鉄2号線で宝帯橋南下車、徒歩約15分(1.2km)。

goo.gl

  

<今日の中国語>

圣经(shèng jīng)シェンジン:バイブル・聖書

遥远(yáo yuǎn)ヤオユェン:遠い(遥远的地方で辺鄙な場所)

季风(jì fēng)ジーフォン:季節風

 

 

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