アラウンド・チャイナ

ガイドブックにはあまり載らないニッチな中国旅行指南

老子に仏像、孔子像!神々がカオスの島・仙島へわたる!

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仙島のランドマーク・黄金の老子像

 琵琶湖の3.4倍の面積を誇る太湖にはいくつか島がある。最も大きい島は西山で、ここは蘇州の銘茶・碧螺春の産地として有名。続いて有名なのが西山の南に位置する三山島で、約1万年前のほ乳類の化石が大量に発掘されたことで知られている。ちなみに西山とセットで語られることの多い東山は半島だが、もともとはここも島。砂州の成長により陸地化した陸繋島のようだ。

↓潟湖〜、砂嘴〜、砂州〜、陸繋島〜!(0:28あたり)

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 このように太湖の島といえば、蘇州に集中しているのであるが、実は無錫にも島がある。それが鼈頭渚のすぐ西にある仙島(xiān dǎo:シェンダオ)。鼈頭渚公園のチケットを使って行くことができる。

 さて、無錫といえば、太湖の西岸に霊山大仏という一大仏教テーマパークがあり、以前、このブログでも紹介した。

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 今回紹介する仙島も、この霊山大仏に負けないくらい胡散臭い。なんせ、この仙島というのは地名ではなく、古代中国における神仙が住む場所の意。すなわち、正しく日本語訳すれば仙島は「神々の住む島」となるわけだ。

 …ね、ものすごく胡散臭いでしょ?実際、この島、ツッコミどころが満載なのだ。

 そもそも島というのは、中国においては、人里離れている印象からか、信仰の対象になりがちだ。例えば、先ほど紹介した蘇州の西山は、この地における道教信仰の中心地で、林屋洞という洞窟は中国十大洞第九とされるほど由緒正しい場所だ。一方で、仙島はといえば、1950年代に開発がスタートし、1990年に名前を仙島へ改名と、かなり最近の話。つまり由緒をへったくれもないわけだ。ただ、後述するが、この島のカオスっぷりは中国人の信仰感を知るうえで、非常に役に立つと思われる。

 それでは早速、仙島を案内しよう。仙島へのアクセスはただひとつ、鼈頭渚公園内に設置された船乗り場を使う。行ってみれば、人々が近づけぬとは思えないほどの、大量の人民が船に乗っている。

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仙島行きのボートは満員御礼。もはや不安しかない

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仙島の船着き場に到着。なるべく神々しく光っているように想像する

 さて、仙島は3つの島からなる(そのことから古来は三山と呼ばれたようだが、蘇州の三山島と同じ名前なので紛らわしい)。ボートが着くのが西鴨で、真ん中の一番大きい島が三峰、その向こうの一番小さい島が東鴨と呼ぶ。前日のコラムで瓢箪型の島と書いたが、実は島はもうひとつあったようだ(あまりにも小さくてわからない)。

 西鴨には小高い山があって、その名を花果山と呼ぶ。どっかで聞いたことがあると思ったら、同じ江蘇省のはるか北東・連雲港で訪ねたではあるまいか!

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 花果山は孫悟空が生まれた山で、火山島にあるとされているから連雲港の花果山よりも小説の記述に近いのであるが、悲しいかな、あまりにも規模が小さい。筆者は小さすぎて見逃してしまい、この山には登らなかった。

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そういや麓に猿のオブジェがあったが、孫悟空だとは思わなかった!

 さて、見所満載の三峰には会仙橋を渡る。三峰に着くとまず目に飛び込んでくるのは小さな砂浜。海には漁翁像(おそらく釣り仙人の太公望だと思われる)、浜には縁結びスポットである同心鎖と早速、コンセプトがぐしゃぐしゃ。とりあえず縁起の良さそうなものを寄せ集めた感じ。

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金沙灘から会仙橋および背後の花果山を眺める

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海に浮かんでいる太公望の像

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縁結びスポットの同心鎖。日本人にもわかりやすいネーミング

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大量の南京錠が括り付けられている。もっとかわいいデザインはなかったのか

 金沙灘から先は急な階段が続いていて、辿り着く先は天都仙府という道観だ(道教では宗教施設を寺院と呼ばず、道観と呼ぶ。道観の門前街を観前街と呼び、蘇州のものが有名)。現世利益を追求する道教は、仏教とは宗教観が異なり、日本人からすると、どうも胡散臭く感じる。しかしながら、アジア各地に強い影響を与えた道教の影響から日本も逃れることはできず、意外と道教信仰は日本にも根付いているのだ。代表的なものが干支で、もともとは春秋時代の五行思想が道教に取り入れられ、のちに日本に伝わった。また平安時代の陰陽師も、道教思想を取り入れたものだ。

 さらに七福神の福禄寿や寿老人は中国の道士の名前(影が薄いけど)。ほかにも風水や山伏など、道教が発祥の文化はたくさんある。 

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天都仙府の本殿である文昌殿

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台座をよく見ると干支が描かれている

 さて、天都仙府を再び降り、島の東側に回ると、この島のランドマーク、黄金の老子像が目に飛び込んでくる。この老子像の背後をよくみると、まるでガンダーラ遺跡のような仏教石窟が。そう、この島は道教のみならず、仏教までも包有しているのだ。

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黄金の老子像の背後には仏教の石窟が並んでいる

 日本人から見るとカオスでしかないが、別に不自然なことではないらしい。というのも、中国の道教とは大きく解釈すると「道の教え」。道を教えているものであれば何でもいいということで、仏教や儒教もがんがん取り入れてしまっているのである(ある意味、インドのヒンドゥー教の発展過程に似ている)。なるほど石窟をよく見てみると、仏像だけでなく、孔子像なども混じっている!

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老子と孔子が仲良く並ぶ。もはや何でもありの状況

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涅槃仏もあり。この部屋狭すぎて接写しかできなかった

 日本人からするとまとまりがないなーと思うのだが、宗教の発展過程を見ると、新しい信仰が、地域に土着した信仰と混じり合って、カオス的な信仰が生まれるというのは普通のこと(その反動として原理主義が登場する)。日本だって、例えば前出の七福神などはインド(大黒天=シヴァ神、弁財天=サラスヴァティ、毘沙門天=ヴァイシュラヴァナ)、中国(福禄寿、寿老人、布袋=中国の高僧)、日本(恵比寿)の寄せ集め。日本人が仙島で違和感を感じるように、中国人も七福神は奇異に思うらしい。

 

www.kyosei-tairyu.jp

 最後に、この老子像の向かいにある東鴨にも行ってみる。

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島に渡るのはこの階段を上がるだけ。島と気づかなくても仕方ない

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東鴨から太鼓に浮かぶ名もなき無人島を望む

 仙島は小さい島だが、中身は濃厚。なまじっか由緒があるわけでなく、思いっきり観光施設だからこそ、こちらも気軽に現地の人の信仰に触れることができる。ということで、なかんか濃い体験ができる仙島。鼈頭渚も回ることを考えると、やっぱり丸一日開けておく必要がありそうだ。

 

 <DATA>

仙岛

交通:鼈頭渚公園の太湖游船碼頭から船に乗船し、太湖仙島碼頭で下船

料金:鼈頭渚公園入園料90元(140cm以下の子供は50元)

時間:8:00-17:30 ※冬季は17:00まで

goo.gl

 

<今日の中国語>

混沌(hùn dùn)フンドゥン:カオス。ただし、中国人はこの発音を聞くと、大抵「馄炖=ワンタン」を思い浮かべるハズ

挂锁(guà suǒ)グァスオ:南京錠。南京とあるが中国発祥ではない

卧佛(wò fó)ウォーフォー:涅槃仏。涅槃仏で有名なタイのワットポーは「卧佛寺」と呼ぶ

 

 

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